被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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86 '3(チャレンジ'挑戦( 山徳平塚水産(株)は震災直後、八戸にある水産加工業者にサバの加工食品を製造委託して事業を再開した。練り製品については塩釜で原料を仕入れ、一関で加工し、八戸で製品化を実施した。平塚社長曰く、「水産加工業のApple化」である。製品の企画・デザインは当社で、製造はOEMで行うという意味だ。現在はOEMと内製工場の両方で生産している。このようなOEMへの委託生産の経験を通じて、平塚社長は石巻の中で新しいサプライチェーンを構築できないかと考えた。 震災前、石巻には約200社の水産加工業者があると言われていたが、どの会社がいかなる製品を作っていたかは必ずしも明確ではなかった。そこで、将来構想WGと石巻市の「情報通信技術(ICT)活用人材育成支援事業」の受皿機関である石巻ICTセンターが協力し、石巻の水産加工業者の取扱魚種、製品、所有設備、処理能力等が収録されたデータベースを作成することにした。廃業した事業者も多かったため、現在、140社の情報が収録されている。 その結果、石巻水産加工業者の中で最終製品を作っていた企業は2割もなかったことが判明した。多くは専ら一次加工、二次加工をやっており、例えば切り身だけを作っている会社などがほとんどであった。この調査結果を受けて、従来進めていた販路開拓や水産業の6次産業化といったB to Cへの復興支援では2割の企業しか恩恵に預かれないため、B to Bの取組が必要と分かった。 平塚社長が考える石巻水産業の新しいかたちとは、販路開拓や製品開発は当社や他の最終製品業者が担い、従来内製工場で加工していた処理を地域の中の一次加工、二次加工業者に委託して、外部化するというモデルである。これは自社の設備投資を軽くするということと、地域内で無駄な設備投資を抑制して、稼働率を上げることで競争力を付けることを意図している。 石巻は津波で一度、事業環境がリセットされたため、地域全体で効率的な設備投資をする必要がある。そのためには、個々の企業が個別に対応するのではなく、他社のリソースも相互に活用した地域全体のサプライチェーンを強化することで他地域との競争に勝たなくてはならない。地域内サプライチェーンにおいて品質管理が行われ、衛生管理も徹底することで、石巻の魚加工品であれば安心・安全であるという付加価値を作り、地域ブランドを確立することが最終的な目標である。平塚社長は「団体戦で勝つ」をモットーに石巻の水産業の高度化に挑戦している。 こうした目標達成に向けた動きとして、将来構想WGでは石巻漁港の高度化事業計画の策定を主導した。計画では施設の復旧だけではなく、国際標準の衛生管理の導入、安心・安全を保証するトレートレーサビリティシステムなどのソフト面の強化が謳われており、石巻漁港の付加価値を総合的に高めることで、新しい市場の開拓をすることが狙いである。そのためには、マネジメントの考え方を地域で共有することが必要である。平塚社長は、「水産業では、設備は立派でも衛生管理が徹底していないという事例がまだまだ多く、働く人たちの意識改革が不可欠である。地域独自の衛生管理基準や品質管理基準を持つことが重要である」と語る。 '4(エッセンス'大切なこと( 1社だけの頑張りだけではどうにもならない。津波被災を乗り越えて、地域が認識したものは協業することの大切さであった。石巻ではそれまでは商売敵だった人々が連携し、販路拡大とサプライチェーン構築の動きが共有されつつある。地域企業との協業の取組としては、水産加工だけでなく有志の企業で立ち上げた「元気復興いしのまき」ブランドによるギフト商品のコラボを行っている。また、石巻漁港買受人組合の共同販売事業として、「選りすぐりキット」を商品開発して、2013年のお歳暮商戦に参入している。 OEMで製造したさば味噌煮

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