被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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76 「ナンノクロロプシス」 細藻類は10万種ほどあると言われているが、その中で屋外での培養が可能なものは10種類もないと言われている。それは、動物プランクトンや植物プランクトンが花粉や虫、鳥のフンなどに付着して侵入し、培養池で生存競争(コンタミネーション)が起きて、藻が負けてしまうからである。日本では基礎研究は世界トップレベルだが、コンタミネーションから藻を守る技術を確立しているのは数社のみであった。コンタミネーション対策はイスラエルが世界トップレベルの技術を有しており、当社はイスラエルのシームビオテック社から屋外培養技術をライセンス供与されている。 このように、当社は微細藻、自然環境、屋外培養技術という3つのソリューションを活かし、石巻発のマリンバイオマス事業を展開している。 '3(チャレンジ'挑戦( 当社がこの事業を始めたそもそものきっかけは原社長が日本イスラエル商工会議所の理事であったとき、藻の屋外培養の実証研究の大家であるベンアモツ博士(国際応用藻類学会上級理事)から相談を受け、「大変面白い特徴を持つ微細藻を発見した。海水の冷たい地点を探してくれ」と言われたことがきっかけだ。原社長は学生の頃、金華山周辺で地質調査の合間に海水浴をしていたので、その水の冷たさを覚えていた。そこで現地調査を周辺20箇所程度行い、清崎に1号ファームを建設することになった。海水利用は浸透圧でコンタミネーション対策になるだけでなく、育成した微細藻がビタミンやミネラルを含むことになるので栄養価の増加にも役立っている。 当社のビジネスモデルは、当面の間、植物由来のEPAを健康食品や機能性食品の原料として供給し、収益性を確保することであるが、将来的にはバイオ燃料製造に必要な油分抽出、バイオ燃料への変換技術確立のために、微細藻を大量培養して化学メーカーに対して試料を提供することである。 1リットルあたり100円のバイオ燃料を作ろうとしたら、藻の乾燥重量の価格目標は1kgあたり30円となる。採算を確保するにはkgあたり現在の600円の製造コストをどれだけ下げられるかが課題となる。その解決には、①藻の増殖スピードを上げる、②藻の脂質含有率を高める、③生産施設のコストを下げる、④生産コストの1/4を占める炭酸ガスがタダで利用できる環境に立地する、⑤栄養素である窒素をタダで利用する、⑥海水のリサイクルシステムを確立する、というような取り組みが必要になってくる。 将来的には植物工場スタイルで昼夜24時間培養すれば収量4倍となる。独自の技術開発によって温度管理やコンタミネーション対策も進むため、それ以上の収量が期待できる。また、植物工場であれば立体的に培養池を配置することもできるため、施設面積あたりの収量をさらに増やすことも可能となる。施設を火力発電所などに隣接させれば炭酸ガスはタダで利用できる。窒素については工場や下水処理場からの有機廃液の利用などが考えられる。さらに、人工海水が利用できれば内陸部でも培養が可能となる。日本でも十分に採算ラインにのるバイオ燃料の生産は可能であると原社長は考えている。 '4(エッセンス'大切なこと( 再生可能エネルギーの事業化では地域の特性に合わせたソリューションの組み合わせがもっとも重要となる。当社は地の利、ナンノクロロプシス、培養技術を組み合わせることで、商業化の道を開こうとしている。 当社の挑戦は石巻復興協働プロジェクト協議会の「マリンバイオマスタウン構想」の中核であり、2018年にはバイオ燃料の商業生産を目標としている。油化工場等の立地が進めば新しい産業集積地として石巻が生まれ変わることになる。すでに地元企業主導で市内数カ所に培養のための小型モデルファームを建設することが決定しており、新しい産業の息吹が起きつつある。「地域の協力を得ながらここまで来た。事業を通じて尐しでも地域の復興に貢献したい」と原社長は語る。

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