被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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48 るだけの手軽さ」をウリとする当社製品が60~70代の主婦層から多くの支持を得ていた。焼魚や煮魚は調理には手間がかかるし、臭いも残る。ましてやスーパーでは刺身や干物類が中心で本当は美味しい煮魚や焼魚を食べたいけれども、手軽に食べられる状況にはない。高齢化による個食化が進む現代、このような潜在的な消費者ニーズに手軽さに加えて味と品質を重視した当社の商品は見事にマッチしていたのである。 '3(チャレンジ'挑戦( 直販事業を2~3倍に拡大させるために当社が取り組んだのが、①宣伝広告の強化、②顧客管理システム構築とそのための人材育成、③ピッキング(仕分け)業務のアウトソーシングであった。宣伝広告は費用対効果を数値化しながら戦略的に実施。1件のお客様の売り上げから何%の広告費を出せるか、採算性を確保するために何カ月リピートが必要か等はこれまでの経験から数値化できていた。そこで1件のお客様を確保するためのコストを算出し、そこが黒字であれば継続した。被災後、NHKの「クローズアップ現代」に出演する等、TV出演した効果もあり、固定客は順調に増加していった。 宣伝広告は顧客基盤の拡充を狙ったものだが、ユーザー数の拡大に備えて仕事の仕組みとやり方も変えた。震災前はエクセルで行っていた顧客管理はシステム会社に依頼し、10万人になってもきちんと管理運用できるシステムへ構築し直した。コールセンターのスタッフもマニュアル化による標準化を通じて育成した。また、通常、ピッキング業務は調達から1ヵ月の全業務(調達-加工-流通・販売)のうちせいぜい1週間程度の期間でしかない。ひと月1週間程度の業務のためにパートを確保するのは難しく、業務の変動に応じて工場内の社員が対応せざるを得ない。そこで、ピッキングはヤマト運輸に一括してアウトソーシングした。ヤマト運輸でも、顧客の物流を全て担うビジネスモデルを考えており、互いに思惑が一致した。小野社長は、「既存事業の延長線上で直販事業を考えていれば、無理せず今まで通り内製化することを選んだかもしれない。しかし、直販事業を一気に伸ばすことを決断していたためアウトソーシングするしかないと考えた」と振り返る。アウトソーシングに並行して、以前は一人でも多くのお客様に購入して欲しいという考えのもとお客様の要望(苦手な魚は除いて梱包する等)に個別対応していたスタイルを改め、顧客満足度を下げすぎない範囲で標準化させている。 この間、当社は外部リソースも積極的に活用。(独)中小企業基盤整備機構や岩手県商工労働観光部からの紹介を受けて、マーケティング、通販事業の収益管理、生産管理という3分野でそれぞれ外部専門家の派遣を受け入れた。例えば、上記のような広告費を使いながら収益管理するための財務の仕組みや考え方は外部専門家から多くを学んだ。小野社長は、「経験の尐ない事業領域に舵を切る高度な知識経験を持つ外部専門家の支援は非常にありがたかった」と語っている。これらの各種対応策を通じて、震災前は5,000名弱であったユーザー数は2013年10月現在、17,000名にまで拡大している。 直販事業を拡大させている当社であるが、その一方で課題もある。例えば、新人の急増で、現場の「暗黙知(知恵・コツ)」が共有されず、細かな管理ポイントが不明確になった。そこで、作業標準の見直しに着手し、高品質な商品作りの体制の更なる強化に取り組んでいるという。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社の通販商品:煮魚・焼魚 当社の復興の歩みでは、震災前から培ってきた真摯に良いものこだわる商品開発力を強みと再認識し、その強みを活かせる市場・顧客にターゲットを絞りながら、そこに商品を効果的に提供する仕組みを外部リソースの活用によって構築していった点が特筆される。

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