被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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42 入に取り組み、当社グループのマーメイド食品が2000年に米国FDA水産食品HACCP規則認定を取得した。また、中国、ロシアで合弁会社を設立し、水産加工品の海外販路開拓に取り組んでいた。 新商品開発では、当社は、現在の水産物の流通では、水産物を漁獲し生産する川上の現場と、日常的に消費に接し、消費者ニーズを把握できる川下の小売との間にいくつかの業者が介在し、消費者ニーズを踏まえ、環境変化に合わせた商品開発や販路拡大が困難であると考えていた。そこで、当社は、被災を契機に自分たちで新商品をつくり、他企業とパートナーシップを組み、販路を築き、ネット利用して消費者と直接取引し、きめ細かいサービスを提供する新しい水産業の形を示すべく挑戦している。 当社の新商品開発は、消費者のニーズを踏まえて、地元魚介類を使った水産加工品の高付加価値化を目指すものである。当社は、震災前より、「地域の豊かな資源を活かしたマーメイドードシリーズ」として、水産加工品の新商品開発に力を入れていた。当該商品開発は、消費者ニーズを熟知している商品の最終卸や小売業者とのコミュニケーションを図り、市場や消費者ニーズを反映して商品開発を行うところに特徴がある。主な商品としては、2003年の第42回農林水産祭で天皇杯を受賞した「あぶりさんま」等がある。震災後は、当社グループ観光部門のホテルと水産業の連携強化による新商品開発に取り組んでいる。これは、消費者ニーズを知り尽くしているグループ観光部門のホテルであるホテル観洋の総料理長が味付けを監修するものである。まず、当社は、常温保存でき、温めるだけで本格的な魚料理が完成する調理済み洋風総菜を開発した。具体的には、「マーメイド 洋風味ギフト」としてトマトソース、クリーム煮、ムニエルの3種類、魚種ではサケ、タラ、サバの3種類を開発した。これを、震災の被害が軽微であった大船渡食品(工場)の2Fの加工食品ラインを震災後4カ月で復旧させ、ここで生産することとした。当該商品は、水産庁が「魚の国のしあわせ」プロジェクトで実施しているファストフィッシュ選定の2012年8月第1回で選定された。ホテル観洋総料理長監修、水産事業部の連携としては、このほか震災後「気仙沼ふかひれ濃縮スープ」を開発した。この商品は現在、当社の「気仙沼お魚いちば」の人気商品となっている。その他、おふくろの味の商品として、「三陸海彩 和風煮惣菜詰め合わせ」(ぶり大根、サバ味噌煮、さんましょうが煮)を開発しており、豊富な三陸の海の恵みを活かし、消費者ニーズに対応し商品の提案を行っている。当社は消費者ニーズの把握と新たな販路開拓として、消費者に近い川下への取り組みを強化している。具体的には、首都圏販路開拓、ネット等による直販等である。首都圏販路開拓では、2013年1月に阿部長マーメイド食品を設立し、全国的な販売サービス網の拡充を目指している。また、魚市場にアンテナショップを置く等、顧客のニーズを捉える機会を多く有している。 震災後、水産加工品輸出は厳しい状況にあるものの、長期的には拡大する世界の水産加工品市場は魅力的である。これを取り込むためにも、水産加工品の安全で安心できる製品づくりには、生産から消費までの一貫した品質・衛生管理システムが必要である。当社の大船渡食品(工場)もHACCP取得(FDA-HACCP)に対応した施設となっており、大手流通企業の要求にも応えられる施設である。当社は、現在建設中の大船渡魚市場のHACCP対応と当社の大船渡食品(工場)が連携すれば、衛生管理、トレーサビリティの向上に資すると考えている。 '4(エッセンス'大切なこと( 被災後開発した調理済総菜 当社の取り組みは、震災後の販路縮小等という未曽有の危機をきっかけとして、これまで取り組んできた加工食品の高付加価値化を一層進展させるとともに、社内の観光部門と加工食品部門の連携による取り組みを開始したことが特筆される。

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