被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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40 ファンド)」から融資を受けることもできた。 しかし、「この先、メンテナンス需要は一定程度継続するが、中小型漁船の新規投資が今後拡大していくかは極めて不透明」と当社の菅野亨社長が語るように、中長期的には国内小型漁船の新造需要は減尐傾向にある。「地元水産業の早期復活のために設備復旧と従業員の増員によって生産能力を増強させたため、復興需要がなくなる時に備えて、その能力に見合った仕事量を新たに創り出していかなければならない」。 また、漁船の建造・修理は、自動化が困難で高度な技能を必要とする作業工程が多いため、現場のノウハウが必要とされるが、造船業界は1970年代半ば以降続いた不況期に新卒者採用の抑制を行ってきたことから人材の高齢化が進んでいる。当社もその例外でなく、20~40代前半の若手が尐なく、熟練技能者の持つ「匠」の技能を若い世代に伝承していかなければならない。菅野社長は足元の受注に追われる一方で、次なる課題である「新たな需要創造」と「若手への技能伝承」にも目を向けている。 '3(チャレンジ'挑戦( 当社はいち早い復旧と新規採用によるマンパワーの強化によって拡大する復興需要に対応した。その結果、販路先が拡大したことから、メンテナンス需要への対応が直近の課題である。漁船は購入すれば30~40年は使うことが多く、メンテナンス技術の善し悪しが船の寿命を左右する。メンテナンスは定期的に行うことも多いが、顧客からの急な修理ニーズに迅速に対応することが要求され、機動力と的確な診断力が求められる。そのため船の電装品やエンジン、配線等に関する複合的な知識・技能を有するメンテナンス人員が必要である。当社は、営業再開後いち早くハローワークを通じてノウハウを有する経験者を積極的に採用し、若手への技能継承に力を入れる。「小さな会社で小回りを効かすためには、一人で全てのメンテナンス業務に対応できることが必要で、そのためには多能工化(一人で複数の異なる作業や工程を遂行する技能を身につけること)が大事である」と菅野社長は強調する。 当社は、2013年1月に大船渡市と陸前高田市の造船関連業者3社(大船渡ドッグ、須賀ケミカル産業、金野機械店)とともに、「気仙造船関連工業共同組合」の設立に参画し、大型船の共同受注に挑戦している。同組合は大船渡ドッグの中野利弘社長が先頭に立ち、設立された。当社は、震災後のグループ補助金の申請を契機に、大船渡ドッグ、須賀ケミカル産業との連携を強化し、修理や新造などそれぞれの得意分野を活かした技術提供や機器融通を重ねてきた。菅野社長は、「震災前は近隣の造船関連業者とはライバル関係でほとんど付き合いがなかった。しかし、震災後は連携・協力しないとやっていけないという問題意識を共有し、日頃から本音で語り合える関係性になった」と強調する。ただ、既存業務に注力してきたことから、同組合は具体的な事業計画を検討している段階で、本格的な始動はこれからである。しかし、FRP用資材やステンレス材といった高騰する資材の共同購入でコストを削減する一方、各社が技術や機材を融通し合い効率化を図る方向性は共有されており、これらの取組の具体化に向けた動きを加速化させていくという。 '4(エッセンス'大切なこと( 工場内でのメンテナンス作業 足元が好調な時に次の新たな需要の創造に向けた取り組みを開始している企業は決して多くはない。当社は、メンテナンス需要を積極的に取り組むための人員強化と若手人材への技能継承を図る一方、競合企業との連携を通じた大型船の共同受注への取り組みに今後の活路を見出している。組合の具体的な成果はこれからだか、気仙地域のなりわいの再生に向けた大きなモデルケースとして今後の展開が期待されている。

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