被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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本書の要約 1. 被災地における産業の課題 震災後、多くの企業はグループ補助金(中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業)などを活用して比較的早期に復旧を果たしている。本事例集の昨年度調査でもその傾向がみられた。しかしながら、復旧に追われるあいだ、多くの企業は震災前の販路を失っている。被災地の産業における現下の課題は、いかに販路を開拓し、いかに売上を回復させるかである。 昨年6月に東北経済産業局が実施したグループ補助金交付先へのアンケートによると、震災直前の水準以上まで売上が回復したと回答した企業の割合は36.6%であり、とりわけ水産・食品加工業の割合が14.0%と、その回復度合いが著しく低い水準に止まっている。また、現在の経営課題は何かという問いに対して、「人材の確保・育成」と答えた企業が全体の57.6%、次いで「販路の確保・開拓」が48.3%となっており、ここでも販路を開拓することが喫緊の課題となっていることがみてとれる。このほかにも、復興の地域間格差、雇用のミスマッチ、資材費の高騰など縷々課題はあるが、被災地においては、水産加工業をはじめとする食料品製造業が、従業者数、製造品出荷額ともに製造業の中でトップの地位を占めており、なかんずく斯業をはじめとする被災地企業の売上回復が被災地の産業復興の要であることは言を俟たない。 2. 被災地での挑戦~その共通項とは~ このような被災地における課題に対して、どの企業も共通して取り組んでいるのは、「新しい商品やサービスの開発」、「ブランドの構築」、「新たな販路開拓」である。また、被災地企業の多くは、震災前まで受注生産を主軸としてきたものの、震災を契機に喪失した販路を消費者への直接販売、すなわち「BtoB(Business to Business)から BtoC (Business to Customer)へ転換」することで回復しようとする姿勢がうかがわれる。こうした一連の取組は、これまでも産業の復興にとって必須の要素として繰り返し指摘されてきた内容であるが、そのいずれもが云うは易く行うは難しである。 しかしながら、本事例集の各企業の取組を仔細に見てみると、幾つかの共通点が浮かび上がってくる。「新しい商品やサービスの開発」については、“徹底したニーズの把握”、“大胆な発想の転換”、“震災を気づきとした着想”、“足許の強みの再発見”といったキーフレーズが浮かんでくる。 また、「ブランドの構築」については、“巧みなプロモーション展開”、“地域ぐるみでの取組”などといった内容である。 そして、「新たな販路開拓」については、“川上や川下への進出”、“他企業との共同化の取組”、“海外販売への挑戦”などの共通点がみられる。 さらに、これらの取組が個社や限られた同業者とのあいだで小規模に行われていたものが、地域単位の取組へと発展し、さらには地域における業界再編の動きにまで進化しつつある点も今回調査結果の大きな特徴のひとつである。 '1( 新商品や新サービスの開発 “徹底したニーズの把握” 新たな商品やサービスを生み出そうとする際、事業者はそれまで培ってきたシーズを起点に商品やサービスを考える傾向がある。しかしながら、本事例集では徹底したニーズの掘り起しから新たな商品やサービスの開発に成功している事例が多くみられた。 漁家のニーズを洗い出し2日がかりの塩蔵工程を1時間に短縮させた「しおまる」を開発した石村工業、農家の

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