被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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32 地域のバス会社としてインバウンド観光のうち、宿泊・観光地・現地交通手段等の地上手配を行う業務を行っている。当社は着地型観光の取り組みを震災観光でも取り入れようと考えている。当社の震災観光の取り組みは、震災ボランティアの輸送が最初である。その後、震災観光の流れをつくるため、地域で協議会を発足させた。まず、復興で街のにぎわいづくりに取り組もうと、最初に久慈市で地元商店・復興応援者も出店した直売イベントである復興市を始め、2013年6月までに4回実施した。次のステップとして、交流人口を増やすべく、震災を学びながら観光する周遊バスを開始し、今年は2千人程度を集めた。また、個人客に三陸に来てもらうべく、「いわて三陸観光プラットフォーム」HPを立ち上げ、三陸観光情報の提供業務も岩手県から受託している。ただし、震災から時間が経過し視察ツアーは減尐しており、新たな取り組みが必要とされている。 '3(チャレンジ'挑戦( 地方バス事業は、現状を追認するだけでは、人口減尐でパイが小さくなる一方であり、今後の経営が難しい。地方バス事業は幹線の生活交通の維持を目的に毎年ネットワーク計画を県経由で国に提出し、赤字系統の補てんを行うしくみになっている。このため、マーケティングの発想がやや弱いという業界特性があるとされている。そこで、当社は、最適な公共交通体系の整備に向け、利用者ニーズに力点をおいたマーケティングを行っている。具体的には、①利用者視点に立ったサービス向上を図り、②事前周知により潜在ニーズを喚起し、使いやすい・判りやすいバスを目指すことで利用者を増やすことである。2013年10月から観光客に使いやすくする取り組みの一つとして、バス検索システムを導入した。今後の課題は地域の持続可能な交通ネットワークをどのようにつくるかである。現在、宮古市と街の形、人口構成の変化等に対応し、ゼロベースで公共交通の路線を見直す取り組みを実施している。維持するべき市民へのサービスレベルを踏まえ、官民連携で最適な地域公共交通を考えている。宮古市、山田町では仮設住宅から高台移転など新たな街づくりが進行中であり、住宅の密集地域と生活関連施設を中心部に集約するコンパクトシティの取り組みを進めている。当社は交通結節点・ターミナル等の整備と路線のゼロベースの見直し等により、新しい街づくりにあわせた公共交通を目指している。 当社は、被災地における新たな交流人口創出の取り組みとして、企業や自治体向けの研修を主なターゲットとしている。その内容は、震災・防災と復興を学ぶ研修(以下、復興ツーリズム)である。2013年12月~2014年2月にかけて4回のモニターツアーを実施し、2014年4月以降プログラムをつくっていく予定である。行政版の語り部が目玉で、ニーズに応じた各種研修メニュー(新人研修、リーダー研修、自治体研修他)を開発しようと考えている。日立コンサルティング、旫化成、千代田化工等のプログラム作成を通じてノウハウを蓄積し、そのモデルを一般化しようと考えている。当社は地域をよく知る地元バス事業者として、全国的な旅行会社ではわからない被災地内でのネットワークを活用し、震災対応に従事した自治体、被災したホテル、NPO等の当事者から直接聞く復興の取り組みをベースとして、復興ツーリズムの普及という新たな取り組みを行っている。 '4(エッセンス'大切なこと( 被災地ツアーバス 本事例は、地方バス事業者として、利用者ニーズの視点に立ったマーケティングと、交流人口増加を目指した着地型観光振興に特徴がある。マーケティングがそれほど重視されていなかった地方バス業界にあって、利用者や住民へのアンケート等の取り組みで利用者数を増加させようとしている。人口減尐下の地方バス事業者として、全国的な旅行会社ではわからない被災地内でのネットワーク、自治体・被災者の復興の取り組みをベースに、新たな交流人口創出を目指して復興ツーリズムという新たな取り組みを行っていることが特筆される。

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