被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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28 年に健康をコンセプトに福島産品を使用した半加工品を極力使わないビュッフェダイニングを開始し、好評を博した。 '3(チャレンジ'挑戦( 当社は、震災で施設被害はほとんどなかったが、観光客の宿泊予約のキャンセルが震災以降続出し、ほぼ全滅となった。しかし、施設のライフラインがつながっていたため、震災復旧の前線基地としての復興関係者の宿泊や、福島県の2次避難所として営業を継続した。この間、通常の宿泊需要がなく旅館サービスを必要としなかったため、最低限の人員構成で業務を行った。2011年8月頃から客足がもどってきたため、復興関係者の宿泊対応と観光客の対応の両方に迫られた。 観光客向け業務を再開するあたり、問題になったのはビュッフェダイニングをどうするかであった。当社ビュッフェダイニングは福島県産使用を売り物にしており、放射線の影響で福島県産の米、牛乳、牛肉等の供給がストップし、利用が難しくなったからである。そこで、当社は福島食材支援のため、ビュッフェダイニングの継続を決意し、安全なものから使用を再開した。震災後のビュッフェダイニング継続のためには、新たな改革が必要であり、また、情報発信の必要があったため、食料自給率UPを目的とした農林水産省の取組「フード・アクション・ニッポン」にチャレンジした。結果として2011年、2012年、2013年の3年連続受賞を果たしている。2011年は震災後も厳選した豊富な県産食材を多用し、化学調味料を使わずに数多くの健康アイデアメニューを提供する「地産地消ビュッフェ」の取り組みで受賞した。2012年は旅館、農家、直売所が一体となって福島産食材利用に取り組んだことが評価され、「共存型調理スキーム」で受賞した。これは、従来の青果業者中心の購入から直売所中心の購入に切り替えるもので、「朝どり野菜」のメニューとして好評を博した。当社が買うことで生産者に創る意欲をわかせ、風評により地元消費者が福島産食材を買わない状況を改善するのが狙いだ。経営面では単価の安い直売所を利用したことで仕入費用が低下した。2013年は、「食を通じた人と人の絆」で受賞した。これは、「全国のみなさまへ恩返し、絆がもっと深くなるビュッフェダイニング」と題し、季節毎に全国各地の味噌等の発酵食品を取り入れたメニューを開発・提供するとともに、プロの料理が味わえるオリジナルレシピを印刷、全65種を取りそろえビュッフェダイニング会場で配布している。また、被災地で料理教室を開催し健康アイデアメニューを伝授したり、平田村の学校給食センターを往訪し地元産食材使用を支援するメニューを提供し食育教育を行ったりしている。さらに、「フード・アクション・ニッポン」受賞による効果を高めるべく、外販できる商品として福島の米粉、豚肉を使用し、料理長のレシピによる「華カレー」を開発した。このカレーは、ビュッフェで提供するとともに、昨年10月からは直接販売も開始し、料理長とともに、各地商工会等と連携して、全国のイベントにも出品している。 現在、震災対応関係者の宿泊も続いているが、観光客ベースでは震災前の80%くらいまで客足が戻ったと感じている。また、観光客も、復興支援の団体客が多かったがその勢いは陰りを見せ、また、家族、特に子供をつれた家族連れの個人客が尐ないのが目下の課題である。風評被害の大きな部分は、食にかかわるものであり、当社は今後とも食にかかわる取り組みを行うことにより、風評被害に地道に対応していきたいと考えている。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社の取り組みは、①温泉旅館経営合理化・効率化を目的とした調理部門改革、②調理部門改革をベースにした福島産食材を利用したビュッフェダイニングの運営、③震災後の「フード・アクション・ニッポン」を活用した改革の継続と情報発信に特徴がある。食の風評被害への取り組みは、一企業単独では限界があるが、当社は、ビュッフェダイニングでの地元農家との連携からはじめ、地域外の味噌生産者との連携、各地の商工会と連携した「華カレー」のイベントへの出品、さらには学校給食関係者との連携というように次々と関係者を巻き込み、全国への情報発信を行いながら食の風評被害に取り組んでいる点が注目される。

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