被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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18 の工程」を約45日間短縮する農法として注目されてきた。また、直播は通常の稲作に比べて収穫時期が2週間ほど遅くなるため、通常の稲作と直播による稲作を行った場合それぞれ適期での刈り取りが可能となり、作期が分散されることで経営規模の拡大が図りやすいというメリットがある。ただ、従来の直播は発芽不揃いや鳥害が課題であった。鈴木社長は農業現場の課題解決につがなる技術情報について常日頃からアンテナを張っており、農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)が鉄粉コーティング技術を開発していることを掴み、直播栽培の課題を克服できる可能性を感じた。その後、農研機構に特許料を支払い、実用レベルに落とし込むため試行錯誤を重ねた。その結果、種籾を鉄粉と石膏でコーティングすることにより、土中深くに埋まることも水面に浮くこともなく適切な発芽を確保できることがわかり、発芽不揃いの課題を克服。また、種籾の表面が鉄粉で覆われることで鳥害も抑制することが可能となった。それ以後、当社は直播栽培に無人ヘリを活用することで更なる省力化と低コスト化に取り組み、農業現場の生産性を向上させる取り組みとして高い評価を得るに至っている。 '3(チャレンジ'挑戦( 震災は当社に試練を与えた。被災地沿岸部の農業は津波により甚大な被害を受け、農地、用排水機場や用排水路、園芸施設等の施設が大きく損壊。農業生産者等を主なユーザーとする当社の農薬関連ビジネスは6億円の売上減を被った。震災後、当社は失ったシェアの回復を目指して、復興支援室を新たに設置し、農地の復活に向けた取り組みを強化。その一つが「無人ヘリ」による除草剤の散布請負事業である。農地の早期回復には雑草の除去が必要であったが、瓦礫が散乱し足の踏み場もないような状況では作業員による除草作業は難しいという課題があった。そこで、当社は「無人ヘリ」で空中から除草剤を散布することを提案した。ただ、「無人ヘリ」で農薬を散布する場合、国の認可が必要となるが、それには数年かかる。そこで、関係機関に状況を説明し、異例の速さで認可を受け、除草作業を実施した。また、福島の農地では空中放射線量の計測事業も請け負った。鈴木社長は「福島では放射能の問題で農地への立ち入りが難しく、無人ヘリを使用した計測事業は大変喜ばれた」と胸をはる。 他方、被災地の沿岸部では津波によって防除機やトラクター等の農業関連機械が流された事業者は尐なくない。こうした事業者にとって失った農機を購入することは相当の初期投資が必要であり、これまで以上に生産コストを削減していかなければならない。当社は、震災をきっかけに農業の競争力を高める直播栽培の導入の可能性が高まったと判断。鈴木社長は「2011年度は塩が抜けるかわからない状態であったが種子があれば当社で播くので収穫できるかやってみよう」と稲作直播栽培を積極的に事業者に提案し、事業拡大を試みている。また、コンバインが流出した事業者には他の農家から借りうけて対応するなどの工夫をした。その甲斐あって直播請負事業の面積は尐しずつ拡大し、大きな水田での直播栽培も実施できるまでになった。ただ、宮城県の農地は7割程度の回復を果たしたものの、福島はまだまだ回復に至っていない。しかし、鈴木社長は「農業の形態が大きく変わろうとしている今、お客様や地域社会のために何ができるかを考え、“無人ヘリ”の費用対効果を高めながら海外展開を見据えて、生産者とともに成長してきたい」と展望を語る。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社は無人ヘリの技術を活かしたオリジナル商品の提供によって農業の活性化や復興に大きく貢献しているが、それを可能とした理由について、鈴木社長は次のように語っている。「常にアンテナを高くし、時代のニーズの先取りを考え、色々チャレンジしては失敗を繰り返してきた。ただ、それで終わることなく、失敗の要因を分析し、再チャレンジするサイクルを素早く回してきた。それが今の成果に繋がっているのだと思う」。 鉄粉コーティングした種籾

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