被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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3 2. 事例の分析結果 '1(個別事例に共通した課題とその対応策 東日本大震災は被災地企業に対して、資材や設備の流出、既存顧客の喪失、風評被害、資金不足、人材不足等、数多くの経営課題をもたらした。ただ、震災から3年が経過し、被災地での復興は応急的な復旧から新たな局面を迎えている。つまり、被災地企業の場合は、中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業(グループ補助金)などを活用して事業再開に必要な用地や設備等のハード面の課題を既に克服しているものの、失った販路の確保・開拓や新たな収益源としての新商品開発といったソフト面の課題に直面している。以下では、かかる状況認識を踏まえ、復興局面における共通課題を整理しそれぞれの課題に対する対応策を示している。 ① 震災で失った売上の回復、新たな販路開拓に対応したケース 水産加工業の会社も製造業の会社も、営業再開に長期間を要しているケースが多く、その間に従来の販路が断たれ、震災前の売上水準に戻らないことが重大な課題となっている。本事例でも比較的早期に事業再開を果たした企業においても、既存顧客が他の事業者に占められ取引を再開できなかったケースも尐なくない。こうした課題に対しては、既存商品の魅力を高めることが方策の一つである(対応策1-1)。例えば、復興支援活動を行うデザイナーやアーティストとのコラボレーションによって伝統的な民芸品に斬新なデザインを施し、商品の魅力を向上させる取り組みはその好例である。 また、原発事故による風評被害に直面した被災地では、放射線情報の継続的な開示等の地道な対策に取り組む一方、商品の安全性や品質面の高さを外部の客観的な評価によって証明し、風評被害を見事に克服しているケースもある(対応策1-2)。 観光・集客事業に関しては、交流人口の減尐に直面する中、震災で落ち込んだ集客をどのように取り戻すかが課題となっている。本事例では、被災地を観光したいというニーズに対応した復興ツーリズムを実施するケースの他に、これまでターゲットにしてこなかった地元の利用客の取り込みや復旧した新工場に見学コースや体験コーナーを設け観光拠点としての集客を図るといった取り組みも見られる(対応策1-3) いずれのケースも既存商品やサービスの魅力を高め、震災で失った顧客の回復を図る取り組みである。 既存顧客との取引再開という課題に取り組む企業がいる一方、新たな顧客を開拓することももう一つの重要な課題となっている。多くの企業では新たな顧客開拓に向けて、販売チャネルの構築に力を入れている。その中には、競合になりうる地元の造船関連会社4社が連携し、大型船の共同受注に挑戦する取り組みもあれば、海外で試飲会を開催し、日本酒の海外輸出を図る取り組みも見られる(対応策1-4)。 また、自社商品に対する認知度を高めるのも新たな顧客開拓の方策の一つである(対応策1-5)。例えば、世界一薄い絹織物を開発した企業は、自社の技術力を積極的に外部へPRすることで、異業種への販売展開を実現した。

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