被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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130 事業再開に向けて、当社は事業に必要な金型約1000個を約7か月かけて本社工場から搬出した。生産体制復旧として、金型製造は元々の拠点であった協伸工業で全て対応した。精密プラスチック成型は、精密加工の度合いによって当社海外拠点あるいは国内協力工場に振り分け、当社の技術指導の下に対応した。2011年8月には、相馬市内の空き工場を取得し(取得資金はグループ補助金を活用)、9月から操業を開始した。こうして当社は復旧にこぎつけた。 '3(チャレンジ'挑戦( しかし、当社を取り巻く経営環境は、震災前後で大きく変化した。震災以降、海外顧客の中には、「フクシマで作った製品は受け取らない」と露骨な対応をする相手先が目立つようになった。岡田専務は、「今はだいぶ改善されたが、原発問題の報道がなされる度に、『当社は本当に大丈夫か?』という海外顧客の不安が惹起される。一企業の取組みだけでは何ともしがたい」と語る。国内顧客の中にも、要請に応じて金型を返却しそれきり取引が途絶えてしまった先もある。当社グループ全体の売上は、震災前に比べ約6~7割の水準に落ち込んだ。 このように当社を取り巻く状況は厳しいながらも、将来につながる打ち手として、当社では、コア技術である精密プラスチック成型技術や精密プラスチック成型から派生する金型技術を、伝承・深化するための人材育成に注力している。家族の事情などで退職してしまった従業員もいるが、キーとなるベテラン技術者は幸いにも全員当社に残った。技術力を源泉として今後も事業を継続していくため、当社は、ベテラン技術者の後継確保に向け新卒採用を積極的に進めている。併せて、ベテラン技術者に対し、自身の技術のレベルアップと若手への技術伝承をテーマに与えて取り組ませることにより、ベテランと若手が共に学び、技術を高め合う環境をつくり出し、全体としての技術力の底上げを図っている。特に金型を製作する上で重要な型合わせ仕上げは、熟練したベテランのノウハウ・経験に頼る部分が大きく、それらノウハウは、伝承後も長年経験を積んで体得していくしかない。岡田専務は「震災以降、新卒など従業員数は30名近く増え、操業には十分な人手を確保しているが、技術伝承のために若手を継続的に増やしたい。当社しかできない技術をどう伝承していくかをこれからも重視したい」と語る。 元々、当社の国内拠点は技術開発のマザー工場としての機能を有していたが、当社ではその機能を相馬市の新工場に一層集中させる。また、既存の海外拠点についてもベトナム(2013年完成)及びインド(2014年夏完成予定)に新工場を建設し、現地生産対応を目的に設備拡充を進める。このように、当社では国内拠点は技術、海外拠点は生産と、機能分担を一層進めていくことを考えている。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社は、雇用維持と人材確保を最優先に、被災地での事業継続を決定し、苦労の末に復旧を果たした。被災地である福島県で持続可能な企業として事業を続けていくために、当社では人材育成を通じた技術力の維持・伝承・深化を図っていく方向にある。 しかしながら、福島県の製品に対する顧客の懸念は依然としてあり、当社は企業と自治体が協力しての福島県のものづくり産業の復興推進を提案する。岡田専務は「発注先が福島の会社でも気にしない企業とのマッチングなど、風評被害払拭に向けた自治体の協力を強く望んでいる。風評被害の払拭は一企業の力では難しく、企業にできること、自治体にできることを役割分担し、連携して進めたらいいのではないか」と語る。 相馬市の当社新工場

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