被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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110 況に応じて必要な分を生産し、販売では、学校の夏休みで落ち込む学校給食向け需要を、外食向けなど他の取引先向けの販売を増やすことにより落ち込みを尐なくするという具合である。TPSの導入に際しては、現場の従業員の間には最初はかなりの抵抗感があったそうである。しかし、生産効率の変化が目に見えて表れてくると、TPSに対する従業員の抵抗感は尐なくなり、理解も高まった。 '3(チャレンジ'挑戦( 津波により当社の工場は全壊したものの、以前からの協力工場は幸いにもほぼ無傷であったことから、協力工場へ生産を委託し震災からちょうど1月後の4月11日に業務を再開した。自社工場も2012年5月に再建したが、震災以降、スーパーやコンビニ等の外食関係の取引先の多くは当社から他の会社へ調達先を変更してしまい、生産量が震災前から半減した。また、70名近くいた従業員も一度は全員の解雇を余儀なくされたが、事業再開後は生産量に合わせて徐々に人手を増やし、現在は震災前の半分の規模で操業を続けている。 震災により当社の経営環境は困難に直面しているが、当社はTPSによって経営合理化を続けるとともに、さらに生き残りに向けた方策を模索している。一度離れた外食関係の顧客を取り戻すのは難しく、売上の平準化には新たな顧客を開拓する必要がある。1つのラインで複数の車種を生産する自動車工場の混流生産を目標に、大橋社長は、「生産ラインの平準化を目指し、TPSの手法を活かしながら付加価値の高い商品を世に出したい」と語る。そのひとつがイカウインナー「iDo(アイ・ドゥ)」である。ウインナーが好物だった大橋社長は、以前からイカを材料にウインナーをつくる構想を持っていた。8年程前に岩手県内のハム工房に試作してもらったが、その工房で魚介類のウインナーをつくることは制約があるとのことで協力が得られず、商品化はお蔵入りとなった。2011年10月に東京で開催された復興支援の展示即売会に参加する際、目玉商品として何がいいかを考えた際にイカウインナーを思いついた。通常の豚肉ウインナーに比べ低カロリーというヘルシーさが売りであるイカウインナーにより、業務用のみであった販売先を一般消費者にも広げて売上の拡大を目指す。その他、歯の弱ったお年寄りでも食べられる柔らかな食感のイカ加工品の開発に取り組み、病院関係の拡大も目指す。 当社が工場を再建した際、「以前の通りに工場を再現するだけでは意味がない。新しいことに取り組めるような工場にしたい」と大橋社長は考え、惣菜などの加工作業用スペースを新たに設けた。現在、イカウインナーは同スペースを活用し自社製造している。イカウインナーを契機に、当社ではイカのカット加工に留まっていた業務をイカウインナーや惣菜類など調理済み食品加工業務に広げることにより、商品の付加価値向上を狙う。大橋社長は「岩手県は農産物や水産物が豊富である。県内の他の農畜産物とのコラボレーションにより、地元の食材にこだわった付加価値の高い商品を開発したい」と語る。その布石として、新卒採用も尐しずつ増やしている。新卒採用の若い人材にもTPSの浸透を図るとともに、若者ならではの感性やアイディアを、当社の商品開発に活用することを考えている。 '4(エッセンス'大切なこと( 大橋社長は、「TPSはトヨタ自動車のような大企業だけでなく、当社のような水産加工業の経営改善にも十分応用が可能であり、非常に有用であった」と振り返る。 震災後、岩手県においてはトヨタ自動車東日本(株)等関係機関の協力の下、県内の中小事業者等を対象にTPSによる経営改善を普及させるべく「トヨタ生産方式導入研修会」の開催に取り組んでいる。大橋社長も「TPSの手法全てを導入する必要はなく、自社に取り入れやすいところから導入するのがいい」と、県内の事業者への普及促進を期待している。 イカウインナー「iDo」

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