被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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100 終組立に関する知識が求められる。そのため、精米機の製品開発自体はそれほど難しい作業ではなかったという。しかし、販売面では試行錯誤が続いた。OEMとして精米機の販売を始めたが売れ行きが良くなく、農協を紹介ルートとした訪問販売による自社販売に切り替えた。この試行錯誤の過程で、従来の圧力方式の精米機はメンテナンスに手間暇がかかり、使い勝手がよくないことを学んだ。その結果、撹拌方式の精米器を自社開発し、従来の圧力方式に比べて使い勝手もよく、低価格での供給を可能とした。 '3(チャレンジ'挑戦( 撹拌方式によって精米機の製品力は高まった。そこで、当社は拡販を目指して訪問販売からOEMへ再び販売方法を転換。しかし、値段を下げて欲しいという強い要請がOEM先から来るため、性能の高い製品を自社開発しても収益に結びつかないという状態が長く続いた。そこで、当社の山本弘則社長は、2005年にOEMへの過剰依存からの転換を決断し、自社販売と自社ブランドの確立を決断。山本社長は「これまでOEM先との間で消費者に訴求力のある製品コンセプトを議論することはあまりなかった。自立して事業を行っていくのであれば商品力の根本を見つめ直すことが不可欠であった」と振り返る。ビジネス性については、大手メーカーにとって精米機市場は小さすぎて魅力的ではない。それゆえ、これまでの経験から中小の当社でも大手に負けない優れた商品を手掛けることは十分に可能と判断したのである。 そこでまず着手したのが商品力の向上である。精米機という商品の魅力を高めるため、精米専門工場や郡山女子大学の協力を得ながらコメの美味しさと精米性能の関係を調査研究し、美味しさにつながる精米性能とはどのようなものか、精米性能の内容を定義したのである。次に、定義した精米性能を客観的に測定するための評価方法と評価基準を定め、その評価基準を達成するためにどのような技術力が必要になるかを明らかにしていった(品質機能展開)。その結果、高温で精米すると米が酸化しやすく味を損ねる点に着目し、温精米が可能な制御方法を開発。さらに、使い勝手の向上にも取り組んだ。従来の圧力方式の場合、精米機の中に米粒が残るため害虫が発生する。これを防止するためには精米機を一部分解して定期的にメンテナンスしなければならなかった。そのため、当社の撹拌式精米機では米粒が残らないように工夫し、メンテナンスフリーを実現させたのである。精米性能の向上と使い勝手の向上に向けた努力が商品の差別化を可能にし、消費者の支持につながっていった。 続いて、自社販売チャネルの戦略的な展開を実施。WEB、量販店、テレビショッピング等の販売チャネルを全て洗い出し、優先順位を明確にして3ステップで販売網の拡大に取り組んだ。まず、有名ショッピングサイトでの販売を通じて当社の認知度を向上させ、その後、都市部に展開するカメラ量販店での店頭販売、そして広域量販店等の全国有名店、テレビショッピングにまで徐々に販売網を拡大させたのである。 この間、食材加工の優位性・仕上がりへのこだわりを消費者に伝えるために道場六三郎氏との提携によるブランディングを選択。2007年には道場六三郎事務所と調理家電用製品に関する名称使用許諾・製品開発に関わる契約を交わし、「MICHIBA KITCHEN PRODUCT」を創設させたのである。その結果、精米機の販売実績は順調に拡大し、収益性も高い事業にまで成長させることに成功している。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社の家庭用精米機 「匠味米」RC23シリーズ 最終完成品を成功に導くには、製品企画力、販売力、ブランド力が必要になるが、部品メーカーはそれらの経験が圧倒的に不足している。当社は約25年の歳月をかけてこれらの経験を積み重ね、一つ一つ学習していった。足りないリソース'ブランド力、知識(は外部から調達し、販売面での試行錯誤を通じて決断力を磨いた。外部から導入した知識やノウハウを内部資源と有機的に結合させ、新規事業を生み出す途を切り開いた。

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