被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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92 '3(チャレンジ'挑戦( 事業再開までに1年5ヶ月の時間を要したことで既存の販路先は既に別の業者と取引を開始していた。その一方で、イオンとは長い付き合いでもあり、新商品の共同開発の提案を受けた。そこで、当社はこれまで扱ってこなかった焼魚を新アイテムに加えるとともに、新商品として「いかめし」の開発に取り組んだ。 当社では八戸から石巻の範囲の三陸産を原料に使っているが、不漁による原料不足と震災による輸送コストの上昇が続いていることから、焼魚は三陸産に拘らず、様々な原料(イカ、サンマ、ブリ、サバ等)を使用することにした。その時々で確保できる原料を使うことで原料調達価格の平準化を図ることが狙いだ。他方、「いかめし」の開発では、岩手県沿岸の定置網で漁獲された肉厚が特徴の真イカと新米品種の「ゆきおとめ」を使用。「ゆきおとめ」は冷却しても味が落ちない低アミロース米で、岩手県農業研究センターが開発した品種である。当社の齋藤勲社長は「もち米を使用するいかめしとは異なり、うるち米を使うことでお寿司のような新感覚で食べられる商品」と語る。2013年1月に盛岡市のイオングループ店舗で先行販売し、好評だったことで東北全店舗での期間限定販売を実施。米飯の冷凍は難しく、务化させないことが業界の共通テーマになっているが、限定販売を重ねる中で付加価値の高い商品に仕上げていくという。現在、焼魚やいかめしが新たに商品と加わることで売上も順調に回復しているが、今後はセブンイレブンやライフ向け商品のシェア回復にも注力していく方針だ。 業務向けのビジネスを展開している当社であるが、「サポーター募集」をきっかけに通販ビジネスの世界にも目を向ける。サポーター募集が終了した段階で復興プロジェクトのメンバーと今後の方向性を議論した結果、大槌町の水産業全体の活性化を目指してサポーターの方々等に大槌の商品を届ける通販事業が目指すべき道ということで一致した。2012年5月、同メンバーと新たに「ど真ん中・おおつち協同組合」を立ち上げ、通販事業を開始。組合設立に当たっては、岩手県中小企業団体中央会から立ち上げのノウハウを学び、大槌商工会から派遣された税理士から支援金の組合への移行方法についてサポートを受けた。通販ビジネスは、組合社員が顧客管理、窓口対応、搬送業務等を担当し、4社が商品を提供するというスタイルで運営している。齋藤社長は、「同じ水産業でも顧客層や取り扱う商品が異なる4社が集まっている。まとめていろんな商品形態で出せるのが大きなメリット」と、通販事業に期待を寄せる。もちろん、課題がないわけではない。4社とも通販以外にこれまでの既存の事業があるが、その事業自体がまだ全面回復には至っていない。それに、業務用ビジネスと通販ビジネスのやり方の違いもある。大量生産型の業務用と多品種尐量生産型の通販では生産スタイルが異なり、生産調整が難しい。それでも、途方に暮れた時に支援の手を差し伸べてくれた全国のサポーターの存在が前に進む原動力となっているという。2013年11月、当社はイオンのプライベートブランドであるトップバリューの製造工場の認定を受け、全国のイオングループ店舗への供給が可能になった。これにより生産体制が安定すれば月々の生産計画も組めるようになり本格的に通販事業に力を入れることができる。また、組合では対面販売用に新店舗を設けることを検討しており、今後も直販ビジネスの拡大を進めていくという。通販ビジネスに注力する環境が徐々に整いつつある中で今後の展開が期待されている。 '4(エッセンス'大切なこと( 復興の目玉として 開発した「いかめし」 当社のこれまでの歩みは、津波で破壊されたビジネス基盤を回復する歩みであった。既存事業の足場を固めることを優先し、その上で新たなビジネスに本腰を入れる。安定的な収益基盤があるからこそ新しいチャレンジも可能になるのだ。「まずは販路を回復し、生産効率を上げ利益率を改善していきたい。利益面の改善後に原料の事前購入による調達コストの削減に取り組みたい」と今後の展望を見据えている。

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